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コラム

電力システム改革の危機と強烈な競争政策の必要性

電力システム改革がうまく進展していないようだ。

低圧(家庭用)の電気料金については、現在旧一般電気事業者(東電や関電など大手電力)のみ料金が規制されているが、これは2020年4月に撤廃される予定だった。しかし、先週、撤廃の見送りが決まったようだ。有力な新電力がおらず競争環境が不十分であることが理由だ。つまり、有力な競争者がいないために、料金規制を撤廃すると大手電力が自由に料金を吊り上げる「規制なき独占」のリスクがあると判断されたということだ。

高圧(工場やビルなど)については、家庭用に先駆けて自由化されており、新電力のシェアも2割程度を占めるに至っている。ところが、この数年、大手電力が強烈な巻き返しを行っておりシェアを奪い返してきているようだ。最近では東電子会社のテプコカスタマーサービスが参入からわずか4年弱で新電力におけるシェアが1位になった。このままいけば、大手電力とその関連企業が市場を再び支配していくことになるだろう。

政府も競争環境整備に向けた様々な対策を行なっている。グロスビディング(大手電力が卸電力取引市場に電力を供出)の促進やベースロード電源市場の創設などだ。通常の役所のスピード感では考えられないような迅速さで専門的な検討がなされていると感心するところもある。しかし、結果だけ見てしまえば、少なくともこれまで実現した取組ではまだ不十分であるということも明らかになったと言える。

 

競争政策の重要性

私は、根本的な問題は、日本では競争政策(特に独占禁止法であるが、各規制法における競争政策も含む)が脆弱であることと考えている。

法的に独占が認められてきた市場が自由化された場合、政策のフィールドは規制政策から競争政策に移る。つまり、「独占を認める代わりに、料金などをガチガチに規制する」から「自由な参入を認めるが、市場における競争を活性化させる」というフェーズに変わる。ところが、自由化しても競争を十分に活性化させられない場合、独占・寡占が生じて、価格上昇が起こる。最終的な被害者は価格に直面する消費者だ。そのため、自由化された市場においては、競争政策が何よりも重要となる。

特に、通常の市場とは異なり、法定独占がされてきた市場においては、旧独占事業者(電力で言えば旧一般電気事業者)は、強大な資本力、圧倒的な量の設備、エリアを網羅した顧客データベースなどにより、圧倒的なパワーを持つ。もちろん自助努力によって培ってきた部分はあるが、法律上独占が認められてきたから得られた面も大きい。このような「過去に法定独占であった市場」においては、特に強烈な競争政策が必要となる。強烈な競争政策が行われないと、過去の規制による恩恵で強大なパワーを持った企業があまりにも有利で、競争が活性化しないからだ。

つまり、規制緩和と競争政策は車の両輪であり、特に法定独占から自由化した場合は競争政策は強烈でなければならない。単に公平な環境を整備するだけでなく、旧独占事業者に対する片面的な規制をかけて対応することも必要である。

電力市場の競争活性がうまくいっていないのは、この機能が不十分であることが原因だと思う。

強烈な競争政策という点で興味深いのは、最近の携帯電話に関する政策だ。大手携帯事業者については解約金を1000円以下に規制するなど、競争を活性化させるための強烈な競争政策が行われつつある。菅官房長官の強力な指導で実現したと言われている。そもそも、3社がお互いを横目で見ながら料金水準を大体同じ程度に揃え、他社への切り替えもしにくくするという、典型的な寡占市場であった。このような典型的な寡占市場に対して、公正取引委員会も総務省も強烈な競争政策を打ってこなかったことがそもそも問題だった。ただ、こうした強烈な競争政策を行うことは事務的な判断で実現できるものでなく、強力な政治的決断が必要という面があったのかもしれない。この点で、最近の政治主導の政策はすごいと感心する。

なお、規制強化に嫌悪感を持つ人たちはこうした政府の介入にも嫌悪感を持つ。しかし、価格メカニズムの機能を低下させる通常の規制強化と異なり、競争政策としての規制強化は価格メカニズムの機能を回復させるものだ。同じ規制強化でも、全く方向性が逆だ。

 

電力市場でも強烈な競争政策が必要

電力においては、工場用などの高圧電力の市場における大手電力の巻き返しが凄まじいらしい。新電力の顧客を狙い撃ちにして、新電力の調達原価を大幅に下回るような差別的な価格で顧客を奪っていくようだ。

もちろん価格競争は市場の本質であるから本来は望ましいことである。しかし、法定独占であった旧独占事業者は強大なパワーを持つ。特に資本力があるので、赤字や利益がほとんど出ないレベルの価格で一部の顧客に商品を供給しても耐えられる体力がある。このような資本力を背景とした大幅値下げ、競争者の顧客の狙い撃ちが行われると、競争者は市場からの退場を余儀なくされる。競争者が退場した後は、「規制なき独占」となり、自由に値上げをすることが可能となるのである。だから、独占禁止法でも、値引きがいくらでも許容されるのでなく、不当な廉売行為や差別的な対価が禁止されている。自由化された市場であっても、旧独占事業者が単に自由に競争できるのでは競争政策として不十分なのである。

まさにこれが現在電力市場で起きていることだ。つまり、大幅な差別的値下げにより、競争者の排除が進んでいる。自由化を成功させるためには強烈な競争政策が行われなければならない。公正取引委員会による対応も重要であるが、独占禁止法の不当廉売に該当するかどうかはケースバイケースであろうし、個別ケースをじっくりと指導していくのでは限界がある。そのため、例えば、卸電力市場の価格を下回る料金設定の禁止(下回るのであれば市場に売った方が利益が出る経済合理的な行動であり、下回る値段を提示するのは競争者排除の目的があると推定されるから)、新電力の顧客のみ差別的な低価格を提示する場合は合理的な理由(取引条件などによる経済合理性があり競争者排除の目的がないことの説明)の提示を義務付けるなど、一段と踏み込んだ強烈な競争政策が必要である。